チンチン電車と六義園

都電荒川線

 現存の荒川線をのぞき、チンチン電車(都営路面電車=都電)が都内からすべて姿を消したのは一九七二年(昭和四七年)のこと。新宿や池袋の路上をクルマやバスにはさまれながら黄色い車体が走っていたことは鮮明に覚えている。当時筆者は自動車に弱く、バスに乗るとすぐに乗り物酔いをしてしまったので電車での移動はありがたかったし、道路の上を電車が走るということ自体が面白かったから、チンチン電車に乗るのは楽しみだった。
 そんなころ、父親に連れられて駒込六義園に行ったことがある。何年のことだかはっきりしないのだがチンチン電車で行った記憶はしっかりあるので調べてみると、六義園前を通っていたのは都電一九系統で、この路線が廃止となったのが七一年三月のことだから、小学校三〜四年生のころだろうか。

元禄太平記』の舞台に行きたかったのか?


 なんの目的で六義園に行ったのか記憶はない。アトラクションもゲーム機もない、静かで落ち着いた庭園に小学生が行っても面白いわけもない。父親の仕事先にでもついていって、ついでに寄ったのかもしれない。ただ子供のころから歴史モノというか、チョンマゲドラマが好きだったので、ここが歴史的に意味のある庭園なんだという認識はあったはずだ。
 そこでチョンマゲ好きの記憶を掘り起こしてみると、NHK大河ドラマに『元禄太平記』があったことを思い出した。五代将軍徳川綱吉時代の幕臣川越藩主の柳沢吉保(演じたのは石坂浩二)が主人公の作品だ。六義園は吉保が造った庭園である。そうか、あのドラマの舞台っていうことで連れて行ってくれとねだったのだろう……そう思って再び調べてみると……あれ? 『元禄太平記』の放映時期は七五年だよ。筆者はもう中学生だ。もっと前だと思っていたけどなぁ。
 ということで結局六義園に行った具体的な理由はわからず仕舞いだ。

当時の世相を批判した小説

 七五年(昭和五〇年)といえば、六〇年代を通して駆け抜けた高度経済成長がオイルショック田中角栄金権政治などの影響でブレーキがかかっていた時期であり、昭和元禄とうたわれた狂騒的な文化もかげりを見せていた。そんな時期に元祖元禄時代のドラマが放映されていたとは予想外だった。てっきり昭和元禄ど真ん中のころの放送だと勘違いしていた。

 しかし南條範夫による原作を読んでみたら、放送時期の必然性に納得。成長期を過ぎ、やや反省モードに入っていた当時の社会の風景を反映させて、徳川元禄期のバカ騒ぎを通した痛烈な現代批判となっているのだ。吉保や側近の経済官僚による腐敗政治の細かい描写は、わかり安すぎるほどの角栄金権政治カリカチュアだし、紀伊国屋文左衛門たち爛熟文化の担い手のバカっぷりは、むしろ最近のヒルズ族か、あるいは映画『バブルへGO』に登場するアホどもと重なる。元禄時代はもとより、高度成長期も大いにバブルだったわけだ。
 もっとも、小説ではかなりのダークヒーローとして描かれている吉保だが、彼の政治手腕に関しては高く買う意見もあるし、綱吉亡き後は政治の一線からすばやく身を引いて保身に汲々としなかったという好評価もある。
 まぁ、どちらでもいいではないか。毀誉褒貶は世の常だ。現職大臣たちも一〇〇年後にどんな評価をされているかわかったもんじゃない。記憶の片隅にも歴史の断片にも存在していない、という可能性もある(笑)。

のんびり歩けば正門はすぐ

 先日、約三六年ぶりに六義園を訪ねてみた。東京は山手線の内側にも日比谷公園神宮外苑北の丸公園新宿御苑など豊かな緑をたたえた公園はそれなりにあり、六義園だけが特別素晴らしい環境だというわけではない。しかしまるで京都の庭園のような落ち着いた趣を見せるこの庭は、吉保によって元禄一五年(一七〇二年)に造園された、都内では珍しい回遊式築山泉水の大名庭園なのである(この辺、入園時にもらったパンフレット丸写し)。

 天気のいい日にゆっくりと過ごすにはとてもいい場所だと思う。小高い丘からの眺望もなかなかで、富士山を見るために綱吉が腰掛けたという石も残っている。文庫版『元禄太平記』では上巻の最後のほうで六義園が重要な舞台として描かれているが、作中、浪人・信花兵庫が生類憐みの令に怒り、犬の首を投げ込んだとされる心泉亭も実在する。
 チンチン電車はもう走っていないが、JR山手線駒込駅からのんびり歩けば正門はすぐである。

使用機材


PENTAX SP / VOIGTLANDER ULTRON40mm F2 / KONICA MINOLTA PAN 100
今一番気にいってるボディとレンズの組み合わせがこれ。ボディは1964年に発売され、日本中を席巻したという銘機SP。M42マウントなので世界中のいろんなレンズを使うことができる。OLYMPUSのOMシリーズやPENTAX・MXなどに比べれば大きく感じるが、手にしっくりくるというか、ちょうどいいサイズだ。この固体はいわゆるニコイチ*1で、プリズムが腐食していたピカピカボディに、ボロボロのボディから取り出したきれいなプリズムを移植した。どちらもジャンクとして購入。合わせても4000円程度だ。それでも露出計は元気よくふれているし、その他の機能も問題ない。自分で直したと思えば愛着の強さも倍増である。またコシナフォクトレンダーの40mmレンズは販売中止になってしまったが、中古屋で掘り出した。純正のフードではなく汎用品を装着してみたが、どうですか? かっこいいでしょ? と自己満足に浸りながら、ためつすがめつの日々なのである(笑)。
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NHK大河ドラマ総集編DVD 元禄太平記

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*1:ふたつの固体のいいところを合体させてひとつの固体をでっちあげること