うめ版―新明解国語辞典×梅佳代

うめ版 新明解国語辞典×梅佳代
 いまやと言うかもはやというか、とにかくブームだよね。立て続けに出版される梅佳代の作品をAmazonで探すと2007年8月初頭現在、5つの商品がヒットする。

男子

男子

SWITCH Vol.25 No.8 (スイッチ2007年8月号) 特集:十代のいま、十代のころ新垣結衣(撮影=梅 佳代)

SWITCH Vol.25 No.8 (スイッチ2007年8月号) 特集:十代のいま、十代のころ新垣結衣(撮影=梅 佳代)

ナミダノイチ

ナミダノイチ

以上に『うめ版』と『うめめ』。

今年度の木村伊兵衛写真賞

 今年の木村伊兵衛写真賞本城直季『Small Planet』(写真集)と梅佳代『うめめ』(写真集)のふたりが受賞した。どちらもリトルモアからの出版である。

small planet―本城直季写真集

small planet―本城直季写真集

うめめ

うめめ

 この軽快なイメージが漂う出版社からの写真集というのが象徴的だと思うが、社会性だとかドキュメントだとかいう重い価値観からは無縁で、小説で言えばライトノベルな感覚の作品といえよう。門外漢としては木村伊兵衛写真賞というのはなんとなく写真の芥川賞だと思っていたから「へー、こういうのもアリなんだ」と感じたのだが、第26回(2000年度)の受賞作、長島有里枝『PASTIME PARADISE』(写真集)、蜷川実花『Pink Rose Suite』『Sugar and Spice』(写真集)、HIROMIXHIROMIX WORKS』(写真集)とか、過去にもいろいろあるわけですね。
 本城直季の作品は大判カメラのアオリという機構*1を駆使したテクニカルなもの。素人にはちょっと撮れないだろうなぁと感心させられる。
 一方梅佳代のほうはテクニックとしては破綻している部分が多い。ピンボケやブレも多く、露出も不安定だ。これならオレでも撮れるぜ、と思わせてくれる(笑)。だが「そこにいてそれに出会うのも才能だ」ということからすれば、素晴らしい才能の持ち主だ。常にカメラを持ち歩いて日々物凄い数のシャッターを押しているのだろう。そしてその莫大な写真の中から作品として抽出する作業にこそ、彼女の本質があると思う。偶然性を必然性に変えてしまう力技、とでもいおうか。
 ただし『うめめ』を見ていて、うわー、やだなーと思ったカットが2点あった。犬の脱糞と象の放尿。もちろんキレイなものを撮るだけが写真じゃないのはわかっている。ただし汚いもの、汚物を撮るときは相当の覚悟が要るんじゃないだろうか。さらに、あがってきたその汚物写真をあえて選ぶということは、かなりの確信がなければできないことだとも思う。しかし前後の流れからいってもオレにはこの2カットの必要性がわからなかった。この2カットで『うめめ』が好きじゃなくなった。

実はオレは新明解は持っていないのだが……

新解さんの謎 (文春文庫)

新解さんの謎 (文春文庫)

 話は飛ぶが、赤瀬川源平著の『新解さんの謎』という本がある。初版が平成8年だから、もう11年前のものだ。当時話題になってオレもすぐに買ったが、友人に貸したまま返ってこない*2。先日横浜の古本屋で見かけたら猛烈に読み返してみたくなり買いなおした。内容は、三省堂の『新明解国語辞典』に記載されている文章が、辞書にしてはあまりにも???なので、それを分析しておもしろがるという、赤瀬川流路上観察を文章にも敷衍したようなものだ。買いなおしたのは昨年の暮れだった。そしてざっと読み返して、やはりおもしろいなぁとは思ったが11年前ほどのインパクトは感じなくなっていた。
 で、忘れかけたころ、急に話題の梅佳代と新明解の合体*3だという。さっそく本屋で手にとってパラパラと立ち読み。「思いのたけ」という項目までたどりついてあわてて本を閉じ、これは購入してゆっくり読もうと思ったのだ。
 要するにちょっと首を傾げたくなるような記述が多い『新明解国語辞典』のいくつかの項目と梅佳代の写真を組み合わせたものなのだが、これがめっぽうおもしろい。まず写真を見て笑い、項目タイトルを見てから写真を見てまた笑い、項目の内容を読んでからまた写真を見て笑う。こりゃもう言葉で説明するより、実際に見てもらうしかないのだが、「生一本」「器用」「存在感」「辛抱」「人間」、さらに先ほどの「思いのたけ」などがオレのお気に入り。
 とにかく企画の勝利だ。新明解を笑うことは一時流行ったが、その笑われている辞書を出版している三省堂自らが開き直ったかのようにこんな本を出す、そのこともまた笑いを誘う。膨大な梅佳代の写真を見ながら、項目に当てはめていったのだろうが、その編集作業はとても楽しかっただろうなぁと想像させてくれる。息抜きには最高の一冊。
うめ版 新明解国語辞典×梅佳代

うめ版 新明解国語辞典×梅佳代

 さて、梅佳代ブームはどこまで続くのか。
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*1:もちろんオレは使ったことないので、どういうカラクリになっているのかよく知らんけど

*2:その友人(女性)とは、まぁイロイロあったのだが、その後結婚したらしく連絡は取れない(笑)

*3:この言葉『新解さんの謎』を読んだ人ならクスリとくるでしょ